[ Japanese / English ]
主な研究対象の一つに、結び目理論を用いた高分子の統計力学があります。ここで結び目とは何かを簡単に説明しましょう。 一次元の紐を閉じたものを結び目とよびます。図では4つの交差点を持つ結び目が描かれています。 いったんひもを閉じますと、ひもを切ることなく他の結び目にうつることはできません。しかし、結び目を図で表す場合そのやり方は一通りではなく、 非常に多数の異なる図が同一の結び目に対応します。一方、結び目を区別するため様々な数学的理論が作られました。 これらをうまく応用することにより、最近、高分子の絡み合いの影響をきちんと調べることができるようになりました。[1]
高分子は巨大分子ともよばれますが、分子の大きさが非常に大きいのが特徴です。 鎖状に伸びた細長いひものような形状の高分子が多く合成されています。身近な例として、例えばゴムは高分子でできています。 また、生物を形作っている生体物質はほとんどすべて高分子の仲間であるといえます。高分子には特有な性質があります。 例えば、卵白はねばねば(粘性)していますが、同時にプリンプリン(弾性)しています。 高分子でできた物質には、粘性と弾性が同時に出現する(粘弾性)という興味深い現象があります。 これらの性質を理論的に説明することは全く簡単ではありません。高分子の絡み合い効果なども重要な因子であると考えられています。
鎖状の長い高分子がたくさん集まりますと、互いに絡み合うことがあります。 絡み合いが生じますと各々の高分子は自由に振る舞うことができず、その配位は制限されます。 統計力学の言葉では、これはエントロピーの減少を意味します。 結び目理論を用いて絡み合い効果が高分子のエントロピーに及ぼす影響をきちんと調べられる場合があり、それを追求することが当研究室独自の研究テーマの一つです。
他にも、厳密に解ける可解格子模型の研究 [2]、
1次元量子スピン系・1次元相関電子系の厳密解の研究などを行っています。[3]
[1]出口哲生、「ランダム結び目と高分子の物理学」、数理科学1997年12月号pp.12-19
[2]出口哲生、「結び目不変量と統計物理学」、数学セミナー1998年4月号pp.50-53.
[3] T. Deguchi, R. Yue and K. Kusakabe,
A gapless charge mode induced by the boundary states
in the half-filled Hubbard open-chain,
J. Phys. A: Math. Gen. Vol. 31 (1998) 7315-7330.